わたしはどこ?

雑に、でも手っ取り早く論文を読んでレビューしてみよう第二回。

今や、雑誌に載る前にネットで見れちゃう、便利な世の中。
というわけで、今回は雑誌に載る前、プリっと出たてホヤホヤの湯気が出てるような論文。

Segmentation of spatial experience by hippocampal theta sequences
Gupta AS, van der Meer MA, Touretzky DS, Redish AD. Nat Neurosci. 2012 Jun 17. doi: 10.1038/nn.3138. (Epub ahead of print)

海馬には、場所に応じて発火する、場所細胞があるので、
ある経路を通ると、その細胞が一体の順番で発火する、というシークエンスができる。

さらに詳しく見ると、シータ波に対するphase precessionがあり、おかげで*1同じシークエンスが行動中に繰り返される。

で、この論文では、そのシータ波ごとに繰り返されるパターンについて、SWR中のリプレイみたいに、パスの再生とみなして
そのシータの一イベント中に再生されるパスと、走る速さや迷路上の場所の関係を調べてる。

すると、このリプレイは、自分が今いる場所より前から始まって、自分がこれから進むところまで続いた。
このリプレイされる場所は、当然、動くに連れてすこしづつズレるのが普通なんだけれど
ちょいちょい、一気にガッとズレるパターンも見られた。
そんで、速く走ってる時は、シータの一サイクルでリプレイされる距離が長くなる傾向が認められた。

さらに、どのくらい前/後がリプレイされるかと、場所との関係を調べると
餌場とかコーナーとかの、「ランドマーク」になるところを過ぎた直後では
これから進む部分のリプレイがより長くなり、
逆に直前ではこれまで進んだ部分のリプレイが長くなる、という傾向が見られた。

つまり、行動中のリプレイは一様におきてるのではなくて、
いくつかのランドマークによって、「chunk」にセグメントされている、らしい。

他に、シータの一波長にかかる時間と走る速さの逆相関(これは前に報告済らしい)や、
シータの波長や一波長にリプレイされる距離とガンマの波数が正の相関を示す
(シータ-ガンマの入れ子のコーディングって仮説とマッチする)とか
走る速さだけじゃなくて、加速/減速によるレギュレーションもあるっぽいとか
まぁ色々と記述してます。

感想とか

シータ波のphase precessionの結果生じるパターンを、リプレイ的にみなして解析したのは面白い。
その結果、その「リプレイっぽい」パターンが、ランドマークを基点としてセグメントに分かれるという。
自分がどっかに行く時に、途中のランドマークごとに分けて意識してるんじゃないか、と考えると、たしかにそうっぽい気がするし
それは、この結果を解釈する上で、いかにも、それっぽい話だ。

ネズミは、いま過ぎた中間地点と、次の中間地点の間を思い出しながら走ってるってことだろうか。
その、思い出す過程が、海馬での発火パターンとして見えてるんだろうか。
オフラインのリプレイも、ふと思い出す、って現象に対応してるのだろうか。

んー、ネズミに、「ねぇ今どんな気持ち?」って聞けたら簡単なんだけれど
きいてところで、せいぜい「チュウゥ〜」くらいしか言わないしねぇ。

そして、もし、このリプレイが、「思い出す(思い出してる)」ってのを反映してるのだとしたら
主に行動直後に見られるという、リバースリプレイは何を表してるんだろう。
あるいは、Dragoi & Tonegawaのプリプレイって何なんだろう。

色々と妄想はふくらみますなぁ。

*1:この辺の因果関係は、どっちがどっちか微妙な気がするが