リプレイと作業記憶的な何か

Awake hippocampal sharp-wave ripples support spatial memory
Jadhav SP, Kemere C, German PW, Frank LM. 2012 Science

今回の論文はこれで。

内容を大雑把に

これまで、寝てる間のSWR中の活動を阻害して、結果、記憶のconsolidationが悪くなるという報告はあった(Girardeau G, Benchenane K, Wiener SI, Buzsáki G, Zugaro MB. 2009 Nat Neurosci.;Ego-Stengel V, Wilson MA. 2010 Hippocampus.こないだ(?)のレビュー)。

じゃあ、起きてる時のSWRを阻害するとどーなんの?って実験をやった論文。
結果、一種の「working memory」とも言えるものが阻害されるとJadhavらは主張している。

この論文では、"ITI"って感じで、3つのアームを繋いだ形のトラックを用意(W-track)。
つまり、真ん中にT字路があって、両端にL字型のカーブがある、と。
で、ラットは、真ん中→左→真ん中→右→真ん中→… と順番にアームの端っこに行くと
それぞれのアームでご褒美がもらえる。

このタスクは、よくよく考えると二種類に分けられる。
1つは、端っこのアームから真ん中に行く"inbound task"。
もう一方は、真ん中から端っこのアームに行く"outbound task"。
よく似てるようだけど、実はoutbound taskの方が難しい。

inbound taskでは、T字路に来た時に曲がるか真っ直ぐかを決めなきゃならんのだけれど
ルールさえ理解してれば、判断に必要な情報はその場で全部得られる。
一方でoutbound taskではT字路に来た時に、右に曲がるか左に曲がるかを決めなきゃならんのだが
この場合、ルールを理解するだけでなく、その前に自分が居たアームがどっちだったかを覚えておく必要がある。
一種の短期記憶の保持、いわゆる作業記憶ってやつに近い。


で、タスクの成功率をinboundとoutboundそれぞれでSWR阻害したグループ(阻害はventral hippocampal commissure刺激)、コントロール(SWRとずらして阻害刺激与えたもの)、何も刺激しないグループで比較すると
Inbound taskではどの群にも差がないのに対し、
Outbound taskでは、SWR阻害群のみ、正答率がchance levelより有意に高くなるのに時間がかかり、
また最終的に到達する正答率も他の二群ほど高くならなかった。

行動中のSWRを阻害しても、睡眠時のSWRの頻度や、場所細胞のプロパティなんかに影響は見られなかった。

感想とか

この実験、8日にまたがって行われ、さらに、一日あたり、睡眠を挟んで2セッション行われてるので
睡眠中のSWRの特性が変わってない事とも合わせると、睡眠時のconsolidationとは違う影響っぽい。
なので、Jadhavらが言う、「記憶を一時的に保持しておく」という役割なんじゃないか、というのは、説得力がある。

Supplemental Fig20で示してる、8日間終わったControlに、今度はSWR阻害のタイミングで刺激する9日目10日目を追加してみると
正答率がOutbound taskでのみ下がる、ということも、この解釈を支持してる。

これって、Diba K, Buzsáki G. 2007 Nat. Neurosci.で言ってる、「Forward replayは行動のプランニング、Reverse replayは記憶の定着」とも繋がるのだろうか?


あと、本筋とは全く関係ないが、行動中のSWRはPlace Field形成には要らん子なんじゃろか?
この論文では、1日目の最初のセッションでラットは初めてW-trackに置かれる。
そこから、SWR阻害群では、SWRを阻害しないでトラックにいる時間はない。
でも、少なくとも2日目のセッションでは、ちゃんとplace cellを持った細胞がいるらしい。
SWRがどれくらいの率で検出できているか(false negativeがどれくらいあるか)にもよるけど。