リプレイは海馬のみにあらず
仕事した後のビールはやっぱ旨いね(挨拶)
論文も雑記もネタが溜まってるので、
今日は二本、一挙にレビュー。
Coordinated memory replay in the visual cortex and hippocampus during sleep
Ji D, Wilson MA. 2007 Nature Neurosci
Fast-forward playback of recent memory sequences in prefrontal cortex during sleep
Euston DR, Tatsuno M, McNaughton BL. 2007 Science
おなじみMcNaughtonと、その弟子でやっぱりおなじみWilsonのラボからそれぞれ一本。
何が面白いのか
どちらも、覚醒時の活動パターンの睡眠時のリプレイが、大脳皮質でも見られる、という事を報告する論文。
standard theoryでは、記憶は最初、海馬に蓄えられた後、大脳皮質などに、より安定な形で蓄えられると考えられている。
この変化の過程を、memory consolidationとか呼ぶ。
海馬において見られるリプレイによって、
大脳皮質でも覚醒時の活動パターンが繰り返されて
それによってconsolidationがなされるんじゃないか、というのが
今のところ有力視されている仮説。
というわけで、大脳皮質でリプレイが見れるってのは
それだけで非常にポジティブなデータなわけ。
Euston et al. 2007ではPFC*1でのリプレイが見られることを示してる。
さらにそれが、覚醒時の7倍くらいの速さだとも見積もっている。
Ji & Wilson 2007では、大脳皮質の中でも、V1*2から記録を行い
V1でもリプレイが見られるという驚くべき結果を示している。
さらに、海馬のリプレイとV1のリプレイが相関している事も示唆している。
具体的に何を見たのか
Euston et al. 2007では、タスク中と、その前後の睡眠時のPFCの活動を記録した。
で、特に報酬と関わる形で、同じタイミングで発火するPFCの細胞があることを見つけ
その発火特性が故に、繰り返しタスクを行うと、同じ発火パターンが繰り返される事を見つけた。
これによって、行動中に見られる活動パターンをテンプレートとして、
睡眠中の活動との関係を評価できるようになった。
で、テンプレートマッチングなどを使って
実際にリプレイが起きていること、
そのリプレイの速度は行動時の7倍程度であることを示した。
リプレイのデータは何時見てもかっこいいなぁ、
Ji & Wilson 2007では、同じ経路を繰り返し走らせることで
V1でも(おそらく同じ視覚入力が繰り返されることによる)繰り返しのパターンが見られること
それが睡眠中にリプレイされることを示した。
さらに、睡眠時の大脳皮質の活動にはup-stateとdown-stateと呼ばれる二つの状態があるが、
実は睡眠中の海馬にも、発火頻度の高い状態と低い状態があることと、
大脳皮質での状態の変化と、海馬での状態の変化が関連することを見出した。
発火頻度の高い期間のことを、この論文ではFrameと呼んでいる。
そして、リプレイのあったframeについて、海馬とV1のそれぞれで調べたところ、
一緒に起こる頻度が、偶然から期待される頻度よりも高い事を示している。
海馬と大脳のリプレイが相関してるという、セクシーな結果。
ただし、大脳皮質でのstate changeが海馬よりも先んじるという結果も示してるので
「海馬が大脳の活動をリクルートして」というのとは、違うかもしれない。。
気になる点
Euston et al. 2007でいう、リプレイが7倍速、というのは、Lee & Wilson 2002(レビューはこちら)の20倍速とは随分と違う。
ただ、この論文では、海馬のリプレイは、行動中のシータ波によるモジュレーション*3を考慮すれば、海馬では実質的に全く効果がない、と言えそう。
Ji & wilsonでは、大脳皮質と海馬のリプレイが相関する事を見てる。
具体的には、V1では5808 framesの候補のうち、実際にリプレイが起きてたのは366 framesで、海馬のリプレイが同時に起こったframeは9個だけ。
(逆に、海馬では、1555 framesの候補に対してリプレイが起きてたのが121個、うちV1のリプレイが同時に起こったのは9個だけ)。
統計的に有意なのは分かるのだが、
何か数が少なすぎて、ホントに偶然じゃないのかしらん、と疑いたくなってしまうね。